眠れない、朝気分がすぐれないとの相談を受けた際、以下のどのタイプに近いかまずは聞いています。

  1. 入眠困難:なかなか寝付けない
  2. 中途覚醒:寝付けても途中で目が覚めてしまう
  3. 早朝覚醒:朝早く、目覚まし時計が鳴る前に起きてしまう
  4. 熟眠障害:眠りが浅い

1の入眠困難の場合、30分~1時間布団の中でごろごろしていても、一旦眠りに入れば目覚めるのが朝になってるようでしたら

寝付けない原因 例えば 

・寝る前にスマホやパソコンを見ている、カフェイン入りの飲み物(コーヒー、紅茶、緑茶、煎茶、栄養ドリンクなど)を飲んでいる 
  控える
・首肩が凝っている  肩甲骨回りの柔軟体操をする。湿布をはる
・テレワークで外に一歩も出ていない  朝10分程度でいいので、外に出て太陽の光を浴びる

などを聴取して、それぞれのケースについて  の右のような改善をしてもらうようにしています。首肩凝りについては、実際に一人一人に触診(指圧)して、ここが凝っているからこういう柔軟体操をするようにと指導しています。コロナ禍でちょっと控え目になっていますが。

このようなちょっとしたアドバイスでも結構、改善します。

3,4については、起きた時に強い倦怠感がある場合や昼間急に強い眠気に襲われようでしたら要注意です。仕事やプライベートでストレスを感じていないか聞くようにしています。どのようにしたらストレスが軽減するか、会話の中で個別具体的に探っていきます。

1~4の中でも最も要注意なのが、2の中途覚醒です。生命維持のため、無意識に働いている神経が自律神経ですが、自律神経には、交感神経(活発に活動するために働く神経)と副交感神経(くつろぐために働く神経)があります。日中は、交感神経が優位に働いていますが、ぐっすり眠るためには、交感神経優位 ⇒ 副交感神経優位な状態に切り替わることが肝要です。ところが、日中の強いストレスが長期間続くと、ストレスがない夜中でも交感神経の興奮が治まらず、深く眠ることができなくなってしまいます。3の早朝覚醒や4の熟眠障害になり、やがて、夜中に目が覚める2の中途覚醒に進展してしまいます。とにかく安心して自分から悩みを話してもらえる関係を築くことが大切で、そのような関係を築きつつ解決策を話し合うようにしています。ケースバイケースです。原因がはっきりしている場合、メンタル不調を引き起こしたストレス要因に向き合い、ストレスをためないように対処する方法を自ら学ぶことが大切で、薬はほんのちょっとは助けになりますが、根本的な解決にはなりません。その過程で、寄り添い支援するのが産業医の職責だと思っています。ストレスをためない対処法として、会社員だった時の経験からも自律神経法などのリラクゼーション法は効果があると思います。

睡眠の時間と質が心身の健康に及ぼす影響

下図は、睡眠時間が6時間未満でも、熟睡できていれば心疾患のリスクは増加しないが、睡眠時間が6時間未満で熟睡できていない場合は心疾患の発症リスクが1.5倍ほど増加することを示した調査結果です。

睡眠の時間&質vs 心疾患発症リスク
睡眠の時間&質vs 心疾患発症リスク Sleep. 2010 Jun;33(6):739-44.

但し、

注意力の維持、作業ミス軽減の点からは睡眠6時間では足りないということを示した研究結果が下図になります。

睡眠時間が注意力に及ぼす影響
睡眠時間が注意力に及ぼす影響 SLEEP, 2003 Jan; 26( 2) :117-126

注意力は、Psychomotor Vigilance Task(PVT)で評価しています。PVTはパイロットやバスドライバー の覚醒度評価で使用されているテストで、モニター画面に光がランダムに点灯して、その光に反応してボタンを押すという単純な作業を10分間連続で行うテストです。上図の縦軸の数値が大きくなるほど注意力が低下していることを示しています。

毎日8時間寝ていても、PVTを受けるとすこしはイライラしてしまうので、14日も続くと、多少注意力は低下しますが、

6時間睡眠の場合は、14日間も続けると、注意力は一晩徹夜したのと同レベルかそれ以下まで低下してしまいます。

長時間労働が続くと、睡眠時間が削られ、知らず知らずに疲労が蓄積していきます。注意力が低下してケアレスミスを繰り返すので、イライラし交感神経が興奮し続けるため、寝ている時も交感神経の興奮は収まらず、疲れているのに眠れないという状態に陥ってしまいます。

良質な睡眠をとるために

交感神経(活発に活動するために働く神経)から副交感神経(くつろぐために働く神経)への切り替えが大切です。

入浴 たまにはシャワーだけでなく湯舟にもつかりましょう。

42度以上の熱いお湯ではかえって交感神経が亢進します。 38~40度のぬるめのお湯にゆっくり入ると交感神経の興奮が和らぎます

光・照明

強い青色光は交感神経を亢進させ、体内時計を調節し睡眠を促進する脳内ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制します。寝る前のスマホ、パソコンは控えめに

日中(特に午前中)は引きこもらず太陽光を浴びましょう。10~15分程度で十分です。太陽光は体内時計のズレをリセットし、夜間のメラトニン分泌を促進します。

10~15分程度太陽光を浴びる(顔や手くらいで十分)と皮膚に一日に必要な量のビタミンDが生成されます。ビタミンDは骨の老化を防ぎ、免疫力向上にも寄与することが知られています。

“Blue light has a dark side“ 

(https://www.health.harvard.edu/staying-healthy/blue-light-has-a-dark-side)

によると

夜の青色光は体内時計を狂わせて睡眠障害を引き起こすだけでなく、癌、糖尿病、心臓病、肥満の原因になる可能性があることが研究により示されています。

首、肩、腰の凝り

体の凝りは睡眠を浅くします。デスクワークでガチガチになっている首、肩、腰をまずはゆっくり回しましょう。運動習慣がない方にはラジオ体操でも十分効果があります。ストレスを感じると、反射的に筋肉に力が入ってしまいます。筋肉を力を抜くためにも、上記リラクゼーション法は効果があります。

カフェイン

 カフェイン(コーヒー、紅茶、緑茶、煎茶、栄養ドリンク等)は交感神経を亢進させます。午後の摂取は控えめに。カフェインの体内半減期は4~6時間です。仕事中の眠気を抑えるため、栄養ドリンクを飲むと一層眠れなくなります。

ストレス軽減 これが一番大切

ゆっくり腹式呼吸をして、筋肉の力を抜きましょう。笑顔も忘れずに。

米国の国家機関が腹式呼吸(横隔膜呼吸)を推奨する下記スマホアプリを配布しています。湾岸戦争からの復員兵に、戦闘中のストレスからPTSDなどの精神障害を発症する人が多いことから国が作ったリラクゼーションアプリです。

スマホの無料アプリ:Tactical Breather, Breathe2Relax

共にby National Center for Telehealth & Technology(米国国防総省所属機関)

(以下 栄養の大切さについて記載します 工事中)