心理的安全性の高い職場作りは、職場の生産性を高めるだけでなく、構成員のこころの健康にも役立ちます。それは、構成員だけでなく、最もプレッシャーの大きいリーダーのこころも平穏に導いてくれるはずです。

以上のことを、毎年、厚生労働省が公表している過労死等防止対策白書のデータをもとに、探ります。

下記は、令和3年版白書が公表された直後に(安全)衛生委員会で説明した資料になります。

令和2年版過労死等防止対策白書の振り返り

下のグラフは、業種別・性別の精神障害事案数を表しています。

令和2年版過労死等防止対策白書 業種別・性別精神障害事案数
令和2年版過労死等防止対策白書で公表された業種別・性別精神障害事案数を表したグラフです

白書には、

『業種別にみると、精神障害事案数は「製造業」が 610 件(17.3%)と最も多く、次いで「卸売業,小売業」が 476 件(13.5%)、「医療,福祉」が 455 件(12.9%)、「運輸業,郵便業」が 384 件(10.9%)であった。

  また、業種別・性別にみると、男性の事案数 2,411 件のうち、「製造業」が 498 件(20.7%)と最も多く、次いで「運輸業,郵便業」が 323 件(13.4%)、「卸売業,小売業」が 312 件(12.9%)であった。女性の事案数 1,106 件のうち、「医療,福祉」が 342 件(30.9%)と最も多く、次いで「卸売業,小売業」が 164 件(14.8%)、「製造業」が 112 件(10.1%)であった。』

としか記されていませんが、

就業者数は、業種間、職種間で相当違いますので、同人数当たりでの事案数を比較しなければ正しい評価はできないはずです。

業種、職種別の就業者数の詳細については、独立行政法人労働政策研究・研修機構のサイトをご覧ください。https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/chart/index.html

100万人当たりで表してみると、

令和2年版過労死等防止対策白書 業種別精神障害事案数(100万人当たり)
令和2年版過労死等防止対策白書のデータから 業種別精神障害事案数(100万人当たり)を求めました

業種別では、

情報通信業が最多となり、建設業、運輸業、郵便業が続いています。腑に落ちる結果かと思います。

令和2年版過労死等防止対策白書 職種別精神障害事案数(100万人当たり)
令和2年版過労死等防止対策白書 のデータから職種別精神障害事案数(100万人当たり)を求めてみました

職種別では、

管理的職業従事者が断トツです。郵送・機械運転従事者、専門的・技術的従事者が続いています。

令和2年版白書の資料に戻ります。

精神障害の労災認定事案数のピークは、30~40代にあるのですが、下図の通り自殺者のピークは40代でやや高年齢側にシフトしています。

これは何を意味しているのでしょうか。前のグラフと合わせて考えると

      管理職になるとストレス↑・孤独感↑

誰にも、相談できずに、疲労困憊し、自殺を選んでいるのではないでしょうか。

令和2年版過労死等防止対策白書 年齢別自殺者数
令和2年版過労死等防止対策白書 年齢別自殺者数

自殺した方の受診歴をみると、一度も医療機関を受診していない方が6割以上という衝撃的な結果です。

令和2年版過労死等防止対策白書 自殺者数受診歴
令和2年版過労死等防止対策白書 自殺者数受診歴

さらに衝撃的な数字が、令和3年版白書で公表されています。

令和3年版過労死等防止対策白書

自殺事案で、労災認定の疾病に関する医療機関受診状況は、全体でみるとおよそ3人中2人の方が一度も医療機関を受診しておらず、

極度の長時間労働を強いられた方については、4人中3人以上の方が一度も医療機関を受診していなかったという結果です。

令和3年版過労死等防止対策白書 自殺者数受診歴
令和3年版過労死等防止対策白書 自殺者数受診歴 

さらに衝撃的なのは、5割近くの方が発病してから6日以内に自殺しているという事実です。

令和3年版過労死等防止対策白書 発病してから自殺するまでの日数
令和3年版過労死等防止対策白書 発病してから自殺するまでの日数

年一度、ストレスチェックをしても、メンタルヘルス不調者を減らすことができないはずです。

どうしたらいいのでしょうか。糸口を見つけるため、『労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況』のデータを自分なりに加工してみました。

労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況

ストレスについて相談できる人がいると答えた人の割合と実際に相談した相手別の割合
労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況 ストレスについて相談できる人がいると答えた人の割合と実際に相談した相手別の割合

実際に産業医に相談した人の割合は上司・同僚、家族・友人に相談した人の割合に比べほぼゼロに等しい状況です。産業医制度がいかに機能していないかを表しています。気軽に話せる産業医を目指しているのですが、道半ばです。

10代は強いストレスを感じている割合が他の世代に比べて少ない(データ省略)ため、実際相談した人の割合も少なくなっています。

そこで

十代で実際に家族・友人に相談した人の割合(実際に相談した人/強いストレスを感じている人)を基準にして世代別で実際に相談した人の割合を図にしてみました。

齢を重ねるにつれて、悩みを抱えていても相談できなくなっています。

ストレスを抱えている人が実際に相談した割合(10代を基準にした相対値)
ストレスを抱えている人が実際に相談した割合(10代を基準にした相対値)

メンタル不調者、過労死を減らすためにまず取り組むこと

仕事内容が、専門的・技術的であればあるほど元々相談できる人が少ない上に、管理職になると一層相談できる人がいなくなります。体調がどんなに悪くても上司や顧客との会議に出席せざるを得ません(安易に会議が設定され、一日にいくつも掛け持ちしなければなりません)。自分にムチ打ち頑張ろうとしますが、疲労の蓄積がある一線を超えると体が鉛のように重くなり受診することさえできなくなってしまいます。

気楽に話せる環境が何より大切です

「実際に相談したことがある」人のうち、ストレスが「解消された」人の割合は31.1%ですが、

「解消されなかったが、気が楽になった」割合は59.1%とのデータがあります。合わせると90%超!!!です。

それだけ気楽な会話がこころを和ませてくれるのです。

メンタル不調者を減らすためにも、心理的安全性の高い職場作りが欠かせません